こんにちは、理事長の工藤です。前号では 「恐ろしい後遺症『帯状疱疹後神経痛』にならないために」についてお話ししました。今回は、「格言『後医は名医』って知ってますか?」についてお話します。
■格言「後医は名医」って知ってますか?
先日、ある患者さんから「他の病院では治らなかったが工藤先生のところにきたら一発で治った」と言われました。患者さんが喜んで下さることは大変ありがたいのですが、このセリフを聞くと、微妙な心持ちになります。
というのも、医療の世界では「後医(こうい)は名医(めいい)」ということわざがあるからです。これは「最初に診察した医師(前医)よりも あとから診察した医師(後医)の方が正しい診断を下す可能性が高い」ということです。わかりにくいので具体例をあげます。
たとえば、あなたがお腹が痛くて、近所の「わんわんクリニック」を受診したとします。そこでわんわんクリニックの先生が「これはわんわん病です。この薬で治療しましょう。」といいました。ところが3日間経っても全くよくなりません。それどころか高熱が出てきました。そこであなたは、「これはおかしい」と思い、少しはなれたところにある「にゃんにゃんクリニック」を受診しました。そこで、にゃんにゃんクリニックの先生が「むむっ、これはわんわん病でなくてにゃんにゃん病ですね。こちらのお薬を出します。」そして、あなたがそのお薬を飲んだ結果、3日後にはすっきり治ってしまいました。めでたしめでたし!さて、ここで大抵の人は「わんわんクリニックはだめだ!あそこでは全然治らなかった。にゃんにゃんクリニックの先生は名医だ!」と思ってしまいます。しかし、実際は必ずしもそうとは言えないのが医療の難しいところです。
■後医が名医となりやすい訳とは?
わんわんクリニックで全然治らず、あとから行ったにゃんにゃんクリニックですっかり病気が治った。それでも、「わんわんクリニックはダメでにゃんにゃんクリニックは名医だ!」とは必ずしも言えない。その理由がこの「後医(こうい)は名医(めいい)」という格言です。というのも、後から診察した医師の方が正しい判断を下しやすいのです。もし受診した病院の順番が逆だったら名医の評判が逆転してしまっていたかも知れないんです。
「後医」が「名医」になりやすい理由はいくつかあります。
・「前の病院でだされた薬が効かなかった」、という情報それ自体が診断の参考になる
・病気の初期には、限られた症状しかみられないが、すこし時間が経過すると、だんだん症状がはっきりしてくる
などが主な理由です。後から診察したにゃんにゃん先生は以下のように考えたかも知れないわけです。「ふーむ、なるほど。前のわんわんクリニックを受診して 3日してから高熱の症状も出ているな。わんわん病では高熱は出ないハズ。ということは、やはり診断はにゃんにゃん病だな。しかもわんわん先生が出したこのお薬では効かなかったのか。だったら、違うこのお薬を出せば効くだろう」前のわんわん先生の出した処方があとから診察するにゃんにゃん先生の参考になっている訳です。しかも、わんわんクリニックを受診した後で診断の確定に必要な「高熱」という症状が出てきています。患者さんが、「おかしい」と思ったときににゃんにゃんクリニックに行かずにもう一度わんわんクリニックを再受診していれば「あー、高熱が出てきたということはわんわん病ではなかったですね。にゃんにゃん病でしたね。」と正しい診断に至り、にゃんにゃんクリニックを受診したのと同じように治っていた可能性もあります。
あなたも病院の良しあしを判断するときに「後医は名医」を意識しておくと、本当の名医に会える確率が高くなります。